誰かの部屋
#105 ポールダンサーの部屋
メディア / architecturephoto , 【】TECTURE
物件データ/
所在地 : 東京都杉並区
主要用途: 賃貸マンション1室
竣工年 : 2023年9月
企画 : 東京開発株式会社 / 秦和幸
施工 : THモリオカ /森岡繁弥
既存構造 : RC造 (壁式構造)
造作 : RC
規模 : 地上3階の1階
面積 : 40.15㎡ ※1室のみ
天高 : 2,700mm
(C)田中克昌
築50年を超える賃貸集合住宅の一室改修。全14戸の集合住宅のうち、2017年に302号室、2023年に105号室の2部屋を改修した。クライアントはこの建物のオーナーで古い躯体の質感を好んでおり、スケルトンに解体し、その状態を活かすことで築古の住戸の価値を引き上げることを要望した。
105号室では、クライアントであるオーナーから特殊な2つの要望が求められた。ひとつはポールダンサーが住める部屋を作ること。ただし入居者が決まっているわけではない。もうひとつは個人的に保有していた大量の強化ガラスを使いたいということだった。
踊りの身体性と住まいとの共存を考える。ポールダンスには、半径1500mmの広さが必要である。ポールの他方にベッドやテーブルが置ける広さを確保すると、ステージと住まいの機能が良いスケール感で並列することに気が付いた。私たちはその間に、コンクリートで列柱を作った。
列柱といえば古代ギリシャのオーダーを想起する。室内に打設した180mm角の列柱が体現する力強い身体性が、ダンサーの精神に見合う秩序になり得ると思った。列柱間にはキッチンやベッドを置くための腰壁を作り、更に通路部分を抜く。主な通路の腰壁には隅切を設けて間取り全体の流れと、均斉をもつ形を作った。強化ガラスは、部屋の奥半分に床として敷き詰め、残り半分である玄関から地続きのキッチンや水廻りや収納エリアは、既存モルタル直均しのままとした。
302号室は、2DKの典型的な間取りを現代に合わせて更新することが求められた。
私たちは部屋を横断するように、新しく「鉄」で床を作った。床は高さ700mmに設定し、テーブルやキッチンとしても利用できる。上にあがるとユニットバスやベッド置場がある。その他は収納やカーペットと木壁の簡素な場となる。まるで床上は生活の表舞台であり、床下は生活の余白となる奈落のようである。
新しい床は眺望の良い屋外への意識を取り入れるため、サッシを貫通してベランダにまで延長している。ベランダに繋がる床の一部は、既存モルタル直均しのままとした。
一般的に集合住宅は合理の秩序の元、同じ間取りの部屋が複製されている。この状況に対して私たちは1階に重いRCを使い、3階に軽い鉄を使い、その質感と量感で部屋のある階に応じた重力や浮遊を演出した。
挿入した新たな構造体は形とマテリアルを兼ねた壮大なフェイクである一方で、それ自体が自律的な存在である。生活の多様化が著しい現代において、画一的に複製された無機質さに一石を投じるカタログのように、次の部屋の改修につなげていきたいプロジェクトである。




























