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メディア / 新建築住宅特集 2025年2月号
物件データ/
所在地 : 北海道札幌市
主要用途: 長屋 兼 共同住宅
(建主住戸・賃貸住戸・貸事務所・テナント)
家族構成: 夫婦+賃貸借主
敷地面積: 435.07m2
建築面積: 241.20m2
延床面積: 327.46m2
規模 : 木造2階
竣工 : 2024年5月
構造 : 辻拓也 / DIX
施工 : 本間義治 / 本間建業
不動産 : 野々垣賢人 / きんつぎ
高橋寿太郎 / 創造系不動産
(C)田中克昌
透明な隣人 – 記憶と共に暮らす -
これは老後を迎える設計者の両親が暮らした築33年の住宅の増改築である。計画地は札幌の開拓期から建主の一族が代々受け継いできた。そのため、場所への愛着と家族と暮らした家への愛着が共存している。約140年にわたって育まれた場所への愛着が、この地域のこれからの可能性と、夫婦の老後の生活とを結ぶように展開し、終の棲家としての役目を終えた、さらにその先まで持続していく計画を考えたいと思った。さらに、両親の豊かな老後として私たちが想像したのは、大らかな空間に包まれながら、隣人と挨拶を交わす程度でも、地域の交流に巻き込まれるような暮らしだった。そこで、かつての記憶を残した家の半分を共同住宅として保存し、その隣に寄り添うように暮らす、増改築の提案を行った。
既存と一体増築を行うため、外壁を残したまま内部はフルスケルトンにして、新設の基礎と構造壁を追加した。増築側は4本柱のトラス架構を作り、既存のパラペットより高く持ち上げた伽藍堂のようなボリュームを既存に覆いかぶせる。すると既存外壁がそのまま室内に現れることになる。両親の住居は1階のみで生活が完結するように、既存に片足を残したまま増築側にスライドさせ、洗面などの水廻りは再利用した。元リビングなど、家の中心だった残りの部分は、共同住宅として用途を整え、地域の活動が入り込む余白として、小さなテナントと大きな共用部を設けた。
テナントや共用部には両親も実際に入ることができる。そこでは新たに迎え入れた地域の活動と家族の記憶がオーバーラップする。現在テナントには50代の夫婦が営む生活用品店が入り、コーヒーを淹れて地域の人たちと談笑している。その中には両親の姿を見ることもあり、元リビングである共用部に再び人が集まってきた。この家で長年暮らした両親は記憶をたよりに建物全体を体験することができるはずである。隣人やテナントを通して人と知り合い、今まで気づかなかった周囲にまで、意識が広がるかもしれない。そんな虚の透明性に溢れた風通しの良い暮らしとなることを願っている。子どもが家を離れ、住まいのもて余した部分をあえて他者に明け渡すことで画一的な共同住宅とは異なった家と家との繋がりをつくることを目指した。
(塩入勇生+矢﨑亮大)































































